保存版 〜 長谷良樹 式 個展のひらき方 vol.3 写真のサイズを決める「人生に一度の作業」前編

目次

自分の写真の公式サイズ?

自分の作品の大きさを知っていますか?  データサイズではありません。物理的な写真のサイズです。

コマーシャルフォトは広告やWEBなど指定の媒体にデータサイズを合わせればよく、しかもサイズを決めるのは主にデザイナーの仕事です。

またアートの世界でも、写真を飾る文化がそもそも定着していないため、物理的な写真サイズへの意識が写真家であっても低い状況にあります。

しかし作家として活動する場合、写真サイズを決めるのは必須です。僕も以前はあまり真剣に考えていなかったのですが、様々な展示を繰り返すうちに、サイズ決めを怠ることで問題になるということを知りました。

ネガやデータとして写真を捉えた場合、物理的な写真サイズへの感覚がボヤけます。しかしそもそも大切な作品ならば、表現の最終フェーズでもある物理的サイズも把握しているべきと思います。

個展などで公式写真サイズをどう決めるかについて、前編・後編に分けて自分の実践をご紹介します。

人生で一度きり

まず最初に頭に入れるのは、大きさを決める作業は人生で1度きりということです。

原則として、1枚の写真作品に対し1度決めたサイズ(物理的イメージサイズ – 注参照)を後々変更することはできません。

これは、自分の作品が広い意味で公共に触れる場合、具体的にはコマーシャルギャラリーでの展示、アートフェアへの出品などのケースに、作品の公式サイズが定まっているもの(既定事実)として扱われるためです。

エディション管理(別の回に書きます)も発生するため、原則として1度決めたら2度と変更が効かないものになります。

作品が外国のギャラリーに出品されるという場合も、最初に日本で(もしくは第3国で)定めたサイズが適用されていくことになります。マーケット全体でサイズと販売数が管理されているという暗黙の合意が発生します。従って作家本人と言えども、後から自由にサイズ変更をできない状況となります。

また、実際にサイズを明記した契約書や公式の作品認定書(Certificate Of Authenticity)なども販売のたびにギャラリーや主催団体から発行されていきます。最初のうちに何気なく決めてしまう写真サイズが、実は一生涯に渡るものになると後々知ることになるのです。

とはいえ、本格的に写真を展開するまでは考えない場合(将来のことは誰にも分かりませんが)、サイズ変更も可能だと思います。しかし作家活動をしていく場合、シビアに考えておくべきトピックです。

会場サイズからの逆算なのか

では実際にどのようにサイズを決めるか、その手順の前に、基本的な考え方をまずご紹介します。

ある展示の機会が自分に巡ってきたとします。

展示会場の見取り図をギャラリーの担当者からもらいます。空間(ハコ)のサイズをまず確認すると思います。ヨコが6メートル、タテが7メートルなどなど。

その後、会場の空間サイズに合わせて、写真のサイズを逆算して決めていく。この方法はどう思うでしょうか?

個人的には、これは誤った方法だと考えています。そして頻繁に起こる誤りです。

その理由は、

A)作品(世界観・ビジュアル・ストーリー)と 

B)その展示空間には

本質的 または 意味的な関係性がそもそも存在しない 

からです。

よく考えれば分かることですが、展示会場・空間は、あくまで作品と独立した存在(別もの)です。

作品ができた後の縁で生まれるものです。つまり作品にとって – 事後的な存在 – なのです。

どんな会場や空間であろうとも、ある特定の場所での展示は常に「一時的な出来事」であり、将来にわたって色々な場所で作品が展示されていく可能性を考えれば、ある一つの展示空間のサイズから(逆算的に)写真サイズを決めるのは、意味を成さないことが分かります。

展示機会をくれるギャラリー・会場が事後のものだというのは、そのような機会やギャラリーを軽視するということとは全く意味が違います。

むしろ逆で、そういう機会・場所にしっかりと責任を果たすために、作品を最善の形で準備する必要があるということです。その準備に、サイズのシビアな検討が入ってくるのです。

作品がホームタウンだけでなく、他地域、全国、海外へと巡回するような機会が訪れた時、どこか1つの空間に合わせサイズを決めてしまったことを後悔することになります。僕も過去にこの失敗をした経験があります。

本質的な大きさ

では展示する空間サイズではなく、何を考慮して写真サイズを決めるか。

それは、

写真がモノとして本質的にあるべき大きさ

です。

「写真がモノとして本質的にあるべき大きさ」を説明するため、世の中の他の製品やモノがどのようにサイズが決められているかを考えます。

例えば、乗用車の大きさはどれも似たり寄ったりで、ほぼ一定です。

乗用車が家のように大きくなく、またパソコンのように小さくないのは、人を載せる 〜 荷物を載せる、そのような「役割」に沿ったサイズになっているからです。

つまり「役割」や「機能」が大きさを決めています。

例えばコップも同じです。コップが顔のサイズより大きくないのは、大き過ぎれば使いにくいから。必然的に口のサイズに近いサイズになります。

役割や機能がもののサイズを決める。これが「モノとして本質的にあるべき大きさ」の意味です。

では、写真の役割や機能とは何でしょうか。

それは、 人に見られること です。 

もう少し言うなら「人の感情を動かす」「心を揺さぶる」「驚きを与える」のが写真の役割であり機能です。

つまり写真のサイズ決めは、

「人の感情を動かす」「心を揺さぶる」という役割・機能が成功するためにベストなサイズを考える

ことです。

言ってしまえば当たり前のようですが、実際に起きているのは、市販の用紙サイズから決める、持っているプリンターサイズから決める、展示会場のサイズから決める、そんな実例が多いというのが実情と思います。

ここまでをまとめると、

  1. 写真サイズを決めるのは人生で一度きり
  2. 展示する空間サイズからの逆算で写真サイズを決めるのは誤り
  3. モノとして本質的にあるべき大きさ(イメージの役割を成功させるための大きさ)を考える

手順1 距離を把握する

では具体的な方法です。

まず決めるのは「距離」です。 

作品と見る人の距離 を決めます。

作品サイズが決まってないのに距離を決めるのはナンセンスに見えます。

しかし、鑑賞経験が豊富な人は「距離」の重要さを理解できると思います。

美術館で、絵や写真を心地よく見られる距離が、個人個人にあると思います。「作品との距離」イコール「壁との距離」です。

どのくらい壁と距離を保ちたいか。空間で、どんな距離で感動を感じることが多いか。

自分を例にとると、”風景作品”が好きなこともあり、また自分も風景写真を撮ることが多いので、”スケール感” を最も大切にしています。

まるで大地の上に自分がいるかのように、身体的に写真を感じたい、また感じて欲しいと願っています。

そのため、壁に寄り過ぎるのはNG

少し離れた場所から写真を見て欲しい。

壁から解放されて欲しい。

これが自分にとってベストの鑑賞条件であり、自分の作品の鑑賞者にも勧めたいポイントになります。(もちろん鑑賞者の自由*)

作品にもよりますが、目安として 約 160cm〜200cm が、自分の風景作品と鑑賞者のベストの距離と考えています。

約 160cm〜200cm 離れた所から見た時に、感動を最も呼びやすい写真サイズがあるのではないか。。

このように考えているのです。

では次の回で、「距離」をもとにした写真サイズの細かい割り出し方法と、関連した話題をご紹介します。

(次回につづく)

注記:「物理的写真サイズ」とは「プリント用紙(白黒印画紙・カラー印画紙・インクジェット紙等)の上でのイメージ部分のサイズ(ペーパーの余白部分は除く)」を指しています。

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