
個展のひらき方
アートって本当につかみどころがないですね。定義もよく分かりませんし、やってる本人もよく分からないことが多いです。やる方も、見る方もなかなか分からないものってあまりないですよね。
とはいえ、エキシビションを開催するアーティストは、個展やグループ展を開催するため、考えるべきことが沢山あります。準備の1から10、すべて手を抜けないものばかり。
最初は僕も分からないことだらけでしたが、少しづつ実践しながら学んできました。この10年、グループ展・個展・AWARD展・アートフェスティバルなどを合わせて40回くらいのエキシビションに国内外で参加しました。しかし、まだ全然経験は足りていません。
自分のために少し纏める意味でも、「個展」を開くことについて、知ったこと、考えたこと、気をつけたことなどを作家目線で書いてみたいと思います。
不定期ですが、何本かのシリーズにしようと思っています。基礎的なこともありますので、ご興味ない方はどんどんスキップしてください。
内容は5回くらいに分け、以下のようなものを考えています。
- 場所をえらぶ基礎知識「ギャラリータイプの理解」
- 作品ステイトメントを書く「正解は常に作品の外側に」
- 写真の大きさを考える「人生に一度の作業」
- フレームをえらぶ「服装にも注意」
- 設置する「空間アーティストへの変貌」
貸しギャラリー
まず、個展の会場のえらび方です。ひとことに「ギャラリー」といっても、実は大きく3つのタイプがあることをご存知でしょうか。この3つは、中身と実態がかなり異なるものです。
- 貸しギャラリー
- 公共スペースのギャラリー
- コマーシャルギャラリー
まず、一つ目の貸しギャラリーのお話をします。
貸しギャラリーの特徴は
- スペースを借りるために作家がお金を払う
- 個展の内容は作家の自由
- 会場のカスタマイズはできない
- PR・宣伝をギャラリーは行わない(例外あり)
- 作品の売り上げは、作家が100パーセント回収(例外あり)
- ギャラリーは作家のキャリアに関わらない
「貸しギャラリー」の基本原則は、スペースをお金で借りているだけだとういことです。レンタルスペースですので、全ての企画と作業を作家が主導することになります。
展示内容についてギャラリーが口出しすることは基本的にありませんが、作品の設置は、スペースを管理するギャラリーが手伝ってくれるケースもあります。
僕は10年くらい前に1度だけ、貸しギャラリーを自力で借り「181°」という作品の個展をしました。東京の青山の一等地にあるスペースを10日間借り、25万円くらい払った記憶があります。とても高いと思いましたが、当時どうしても見せたいタイミングだったので、後悔はしていません。
貸しギャラリーの注意すべき点をいくつかあげると、ギャラリーがPR・宣伝をあまりしないことがあります。僕のケースもそうでしたが、「宣伝やります ! 」と宣言している場合でも、実態はあまり効果がないと思います。
貸しギャラリーは、毎月見知らぬ他人の展覧会をするわけです。乱暴に言ってしまえば、レンタル料さえ回収できれば、作家のキャリアへの責任を負いません。ギャラリーにとって客足が伸びなくても致命的な問題ではないので、PRを期待できないのは自然なことです。ということで、貸しギャラリーで展示をする場合、PRは作家が全て自分で行うと考えた方がよいと思います。
売り上げについては、僕が青山の貸しギャラリーで個展をした時は、売れた場合、作家が100パーセント回収できるという契約でした。しかし例外もあります。例えばギャラリー運営者が写真家というギャラリーもあります。東京にもいくつかそういう場所がありますね。
この場合、貸しギャラリーとはいえ企画の内容への関与があるかもしれず、また場合によっては、スーペースのレンタル料を払い、かつ、売り上げの一部もギャラリーに払うというケースもあるようです。ただ、これが必ずしも悪いわけではなく、写真ファンがギャラリーに集まることもありますし、写真家の仲間ができるここともあるでしょう。また情報も入ってくるかもしれません。
あと、先ほどから「契約」という言葉を使いましたが、実際に書面の契約書を交わすというのは、僕の経験では、日本の個展・アートフェアでは殆どありませんでした。基本的にメールなどで確認をします。しかし海外の個展・グループ展・アートフェスティバルに作品を出品する場合、僕の今までのケースでは、書面の契約書を求められるケースが何度かありました。
またデメリットではないですが、当然のこととして、貸しギャラリーでは、個展が終了後、次の機会が訪れることはありません。後述する、コマーシャルギャラリーは、作家とギャラリーはパートナーとして、双方の将来に繋がるよう次の展開を一緒に考えていく関係となりますが、貸しギャラリーはスペースを自分で借りているだけですので、次の展開が自動的に起こることはありません。
実際にどのギャラリーを選ぶのかについては、ウェブサイトやSNSから、1年間分の “過去展” を確認するのがよいと思います。どのような運営をしているか想像できます。例えば、過去にジュエリーデザイナーの個展を2回行っていたというヒストリーがある場合、写真に興味を持つ潜在的なゲストをギャラリーが持っているとは考えにくいです。
しかしそうであっても、個展をしたことがない人にとっては貸しギャラリーは便利で、積極的に利用すべきと思います。発表したい作品が既にあり、デットストックになっている場合は特にです。
もし経験がなくても構想力があれば、作家主導で企画をできるので、独創的なチャレンジもできます。僕もまたいつか良い場所と出会えば、自主企画の個展もやってみたいといつも思っています !
独創的に。
公共スペースのギャラリー
文化会館、図書館、大学美術館、カメラ会社運営ギャラリーなどです(純粋な美術館は除きます)
公共ギャラリーの特徴は
- 展示に費用はかからない
- 展示に目的があり、公共性が伴う
- 作品の販売はできない
- 思い切った内容の展示はしにくい
- 空間のカスタマイズがあまりできない
- 作品のセキュリティが保証されない
作品が、地域性、専門性などの縁で、公共機関から呼んでもらうというパターンです。僕の最近の例では「ENA」という作品が、作品の舞台である岐阜県恵那市の市立図書館で展示されました。また「First Composition」という作品が他のシリーズとともにトルコ イスタンブール SABANCHI大学の大学美術館で展示をされました。
正直、公共期間での個展は、観にくる人との交流が生まれにくい、リアクションが伝わってきにくいなどの印象があります。個展をやった実感が薄い感じがあります。環境的にも、什器や照明が十分でないケースもあります。
また、普段アートに接することの少ない人が作品を見るという点で、訪れた人が作品を触ってしまうなど、不測の事態も起きやすくなります。管理スタッフも、美術が専門ではなく他の仕事との掛けもちが普通なので、作品の安全面では気をつけた方がよいことがあります。
ただ、そういったことを含めても、文字通り公共に向けて広い層に展示をすることになるので、もしなにか縁があれば積極的にやってみるべきと思います。
コマーシャルギャラリー
最後にコマーシャルギャラリーですが、”コマーシャル”という言葉が使われるのは、アート作品を”販売する”という意味でのコマーシャルということであって、取り扱うのは基本的には “アート” です。
コマーシャルギャラリーの特徴は
- 作品を販売する
- ギャラリーが契約を結ぶ作家の展示をする
- ギャラリー独自のネットワークと顧客を持つ
- ギャラリー主導、もしくは作家と協同で企画が決まる
- ギャラリーが作品を管理をする
- 作家とギャラリーが目標を共有する
- 作家のみならず、ギャラリーにも独自の展示意図がある
- 一回一回が真剣勝負
- 作家にプレッシャーがかかる(ギャラリーにもおそらく同様)
同じ “ギャラリー” でも、1の「貸しギャラリー」とは全く違うものです。アート界・写真界を舞台に、ビジネスとして、アート写真を扱うプロフェッショナルな人が運営するギャラリーです。
コマーシャルギャラリーは、それぞれに歴史があり、扱う作家や作品ヘの想い入れ、造詣が非常に深いギャラリストによって運営されます。
作家の側から見ると、コマーシャルギャラリーに所属をしないと経験できないこともあります。例えば、面識のない人に作品を見てもらうこと、収集家であるコレクターに出会うこと、また、海外アートフェアへの出展も個人単位ではできないケースも多く、コマーシャルギャラリー経由で作品を出品することが必要になります。
同時に、作家の側に責任も生まれます。当たり前ではありますが、作品をハイクオリティで制作していくことが常に求められます。作品への考え方も成熟度が求められます。また、作品の管理(エディション・値段・サイズ)なども厳密な取り決めが必要になります。
作家の活動は基本的には 1人ですが、コマーシャルギャラリーこそが、作家にとっての重要なパートナーとなり得ます。個展を開催するときは、作品の充実度・意義の確認、発表のタイミングの検討、その後の展開方法など、様々なことをギャラリー主導、または作家と共同で決めていきます。
作品は作家が作り、ギャラリーが作家を作ると考えることも、ある意味ではできるかもしれません。コマーシャルギャラリーは常に ー なぜ今この作家のこの作品を紹介するのかー ということを明確にしてから企画を考えています。
僕もコマーシャルギャラリーで個展をやるときは、神経をすり減らしつつ、限界まで考えに考えて準備をしています。新作を発表するのは基本的にコマーシャルギャラリーですし、1度失敗したら、次はないかもしれないという思いもどこかにあるからです。
最近の個展レポートは「個展の価値は計りしれない KANA KAWANISHI GALLERY 個展」にも詳しく書いてますので、どうぞご覧ください !
第2回、「保存版 〜 長谷良樹 式 個展のひらき方 vol.2 作品ステイトメントを書く 正解は常に作品の外側に」もご参照下さい。
